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梅雨を方言で何て言う?「にゅうばい」「ながせ」「ながあみ」全国47都道府県の呼び方まとめ

💡 30秒でわかる結論

「梅雨」って方言でどう呼ばれている?

全国の呼び方は、ざっくり 4つのエリア に分けられます。

・ 東日本=「にゅうばい(入梅)」系 

・ 西日本(近畿〜中国)=「つゆ」系 

・ 九州・四国=「ながせ(ながし)」系 

・ 沖縄=「ながあみ」「すーまんぼーすー」系

 興味深いのは、いま私たちが共通語として使う 「つゆ」は、もともと関西の方言 で、東京を含む東日本では「ニューバイ」と呼ぶのが伝統だった、とNHK放送文化研究所が解説していること。

共通語と方言の立場が、いつのまにか入れ替わっていた、ちょっとびっくりな話なんです。

5月が終わりに近づくと、天気予報に「梅雨入り」の文字がちらつき始めます。この季節、おばあちゃんやおじいちゃんが「もうじき にゅうばい だねぇ」「 ながせ に入るね」とつぶやくのを聞いたことはありませんか?

「梅雨」って一見シンプルな言葉なのに、実は 地域によって呼び方がぜんぜん違う 。今回は NHK放送文化研究所・毎日新聞・朝日新聞ことばマガジン・佐藤亮一編『都道府県別 全国方言辞典』 などの信頼ソースを頼りに、47都道府県の梅雨の呼び方をゆるっとマッピングしてみました。

【まずはサクッと】47都道府県「梅雨」の呼び方 大まかな地図

ざっくり全国を見渡すと、こんな分布になります。

エリア主な呼び方代表的な県
東日本にゅうばい(入梅)青森・宮城・秋田・関東一円・山梨など
中部(独自)ながじけ、さずい、はえ岩手・福島・長野(ながじけ)、新潟・富山(さずい)、三重(はえ)
西日本(近畿・中国)つゆ大阪・京都・兵庫・奈良・和歌山・岡山・広島など
四国・九州ながせ(ながし)徳島・高知・福岡・長崎・宮崎・鹿児島など
沖縄ながあみ・すーまんぼーすー沖縄県

東は「にゅうばい」、西は「つゆ」、南は「ながせ」、いちばん南は「すーまんぼーすー」。地図にすると、 梅雨という現象に対する日本人の語感が、ゆるやかに東西南北で違っていた ことが見えてきます。

東日本=「にゅうばい」系|入梅という雑節から生まれた呼び方

東日本一帯で広く使われているのが 「にゅうばい(入梅)」 。北海道・東北・関東・中部のかなりの県で、この呼び方が記録されています。

「入梅」って、もともとは 雑節のひとつ で、太陽が黄経80度を通過する 6月11日ごろ を指す暦の言葉。立春から数えて135日目にあたります(NHK放送文化研究所、暦生活)。気象上の「梅雨入り」とは別物で、本来は 梅雨入りの漢語表現 でした。

それがいつしか、 梅雨の期間そのもの を指す呼び名として東日本で定着していった、というのが大まかな流れ。NHK放送文化研究所は次のように説明しています。

東京を含めた東日本各地では、梅雨の時期そのものを「ニューバイ」と言い表してきたことがありました。 (NHK放送文化研究所「最近気になる放送用語」)

朝日新聞ことばマガジン(2013年、宮田彰彦氏)でも、 東日本では今でも年配の方を中心に「ニューバイ」が現役 だと紹介されています。「死んだばあちゃんは、梅雨のことを『にゅうばい』っていつも言ってましたよ」――こうした個人の記憶が、東日本のあちこちに残っているんです。

ちなみに、岩手・福島・群馬・長野の山間部寄りの地域では「 ながじけ 」という独特の呼び方が記録されています。「じけ」は じめじめ・湿気る といった語感とつながるとされ、 長く続く湿った日々 のうんざりした感じが、そのまま名前になっているような響き。北海道では「 ずり 」という、これまたどこから来たのか想像が止まらないローカル呼称も併存していて、東日本の中でも、 集落単位で梅雨の呼び方が枝分かれしている のがリアルです。

西日本=「つゆ」系|実は元々"関西方言"だった共通語

ここからがこの記事のいちばんの驚きどころ。

NHK放送文化研究所の同じ解説に、こう書かれています。

関西では伝統的に「ツユ」を用いてきたようです。現在の共通語としては、東京の「ニューバイ」ではなく、もともとは関西のことばであった「ツユ」が広く用いられています。

つまり、 私たちが当たり前のように使っている「つゆ」は、もとは関西方言 だった。それが共通語のテレビ・新聞・教科書に乗っかって全国に広がり、 東京の伝統的呼び名「ニューバイ」を押しのけて主役になった ということ。

NHK文研はこれを、

日本の中の方言から取り入れたものを「内来語(ないらいご)」と呼んでいる人もいます。

と紹介しています。外国語が共通語に入ると「外来語」、日本の方言が共通語に入ると「内来語」。 方言が出世魚みたいに昇格していく 現象が、日本語のなかでは結構あちこちで起きているわけです。

近畿地方(滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山)と中国地方(鳥取・島根・岡山・広島・山口)では、ほぼ全県で「つゆ」が主流。古くから関西で定着していた呼び名が、そのまま地元に残っている、と捉えられます。

九州・四国=「ながせ(ながし)」系|長雨が語源?

四国の徳島・愛媛・高知、九州の福岡・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島では、 「ながせ(または ながし)」 が広く使われてきました。

「ながせ」の語源については、 「長雨(ながあめ)」が訛ったもの と推定されています。シトシトと長く降り続く雨の感じが、そのまま呼び名になった、という素直な命名。九州・四国の梅雨は太平洋側からの湿った空気で量が多くなりがちで、 「降る現象そのもの」 にフォーカスした呼び方が根付いた、と考えると、なんとも生活感のある名づけです。

ちなみに香川県では「 くろみ 」という独特の呼び方も記録されており、こちらは後の「個性派」セクションで詳しく触れます。

沖縄=「ながあみ」「すーまんぼーすー」|二十四節気と結びついた呼び名

沖縄の梅雨は、本州とはまったく別物。沖縄では ゴールデンウィーク明けに梅雨入りし、慰霊の日(6月23日)前後に梅雨明け することが多く、時期そのものがズレています(沖縄気象台・大同火災コラム)。

呼び方も独自で、

  • ながあみ … 長い雨。ウチナーグチ(沖縄方言)で素直に「長雨」を表す呼称
  • すーまんぼーすー … 後述
  • ぼーすあみ … 芒種の頃の雨

このうち、いちばん有名なのが 「すーまんぼーすー」 。

毎日新聞「余録」(2021年5月18日)は、こう解説しています。

「スーマンボースー」とは沖縄の梅雨である。「小(しょう)満芒種(まんぼうしゅ)」の方言で、小満とは二十四節気で5月21日ごろ、芒種とは6月6日ごろの節気を指す。 (毎日新聞「余録」)

つまり、 二十四節気の「小満」と「芒種」をくっつけて、沖縄の言葉風に発音したのが「すーまんぼーすー」 。この時期はちょうど沖縄の梅雨と重なり、 期間中で最も雨が多い時期 を指す言葉として、天気予報やニュースでも使われています(大同火災、Yahoo!ニュース気象専門家)。

沖縄では古くから、 暦と農作業と天気が地続き 。「すーまんぼーすー」は、その地続き感がぎゅっと一語に詰まった、なんとも文化的な呼び名なんです。

北陸・三重などの個性派|「さずい」「はえ」「くろみ」とは?

47都道府県の一覧をぐるりと眺めていると、4つの大エリアの呼び方とは別に、明らかに「我が道を行っている」県がいくつか目に入ります。せっかくなので、その個性派たちにもひとつずつ光を当ててみます。

まずは 新潟・富山の「さずい(さんずい)」 。北陸の海風と山の湿気が交差する地域で、これだけ独自の音を持っているのは興味深いところ。語源についてはハッキリした一次資料が見当たらず、地元の方言辞典類でも「諸説あり」という扱いです。漢字の部首「さんずい(氵)=水を含むもの」を連想させる響きから、 水気の多い季節をひっくるめて呼んだのではないか という解釈もありますが、ここは断定せずに保留しておくのが安全そう。

続いて 三重県の「はえ」 。この音、お天気の方言として聞くと意外性がありますが、実は 「はえ」は古くから日本各地で南風や夏の風を指す語 として使われてきた歴史があります。三重は太平洋からの湿った南風がもろにぶつかる土地。 「梅雨=南風が運んでくる雨季」 という、土地に根ざした体感がそのまま名前になっているのかも、と想像が膨らみます。

四国の中で気を吐くのが 香川県の「くろみ」 。周りが「ながせ」一色のなか、ぽっかり浮かんでいる呼び方です。 空が暗く重く垂れこめる、あの梅雨時の景色 を、そのまま"黒み"と呼んでしまう感覚。雨そのものより、 雨を呼んでくる空の色 に名前を貸してしまうあたり、香川の人の観察眼の細やかさが透けて見える気がします。

最後にもうひとつ、石川・福井・岐阜・静岡・愛知あたりで顔を出す 「ついり」 。これは正体がわかりやすくて、 「梅雨入り(つゆいり)」を口の中でギュッと縮めた発音 。中部地方は「つゆ」エリアと「にゅうばい」エリアの境目にあたるので、両方のニュアンスを取り込みつつ、独自に短くしたとも読めます。 発音のラクさを優先する庶民感覚が生んだ言葉 、と言えるかもしれません。

47都道府県一覧表|あなたの地元はどう呼んでいた?

ここまでの呼び方を、もう一度マップ風に並べてみます。地元の言葉、見つけてみてください。

地方都道府県方言での呼び方
北海道北海道ずり / にゅうばい / つゆ
東北青森・宮城・秋田にゅうばい
東北岩手・福島ながじけ / にゅうばい
東北山形にゅうばい / つゆ
関東茨城・栃木・埼玉・千葉・東京・神奈川にゅうばい
関東群馬ながじけ / にゅうばい
中部新潟・富山さずい(さんずい) / つゆ
中部石川・福井にゅうばい / つゆ / ついり
中部山梨にゅうばい
中部長野ながじけ / にゅうばい
中部岐阜・静岡・愛知にゅうばい / ついり
近畿三重はえ / つゆ / ついり
近畿滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良つゆ
近畿和歌山つゆ / ついり
中国鳥取・島根・岡山・広島・山口つゆ
四国徳島・高知ながせ(ながし)
四国香川くろみ / つゆ
四国愛媛ながせ(ながし) / つゆ
九州福岡・佐賀・熊本・大分ながせ(ながし) / つゆ
九州長崎・宮崎・鹿児島ながせ(ながし)
沖縄沖縄ながあみ / すーまんぼーすー / ぼーすあみ

(参考:佐藤亮一編『都道府県別 全国方言辞典』三省堂、地域別の方言辞典類より整理)

「うちのおばあちゃんはこう呼んでた」「私の地元はこの表と違うかも」――そんな声がたくさん出てきそうですが、 方言は地域内でも地区や世代でかなり違う ので、表は大きなあたりとして眺めてもらえると嬉しいです。

【ちょっと寄り道】「内来語」の話|共通語のなかに溶けこんだ方言たち

寄り道タイムです。

冒頭で紹介した、NHK放送文化研究所が示した 「内来語」 という考え方。これ、調べていてかなり胸熱なワードでした。

私たちはふだん、英語やフランス語やポルトガル語から日本語に入ってきた言葉を「外来語」と呼びます。パン、テレビ、コーヒー、ガラス、カステラ…。でも、 日本の方言からそっと共通語に入りこんで、いつの間にか主役になった言葉 もたくさんある。それを「内来語」と呼ぶ研究者がいるのだそうです。

「梅雨(つゆ)」はその代表選手。 東京伝統の「ニューバイ」ではなく、関西の「ツユ」が共通語の座についた という歴史。 どの土地の言葉が"標準"になるかは、決まりきった必然ではなく、社会の流れで揺れ動く ということを、この一語が教えてくれます。

もしも明治・大正の頃に東京の言葉が強く主導権を握り続けていたら、私たちは今ごろ「もうすぐニューバイだねぇ」と言いながら傘を買いに行っていたかもしれない。 方言は劣ったものでも古びたものでもなく、共通語予備軍のひとつ 。そう思うと、おじいちゃんおばあちゃんが「にゅうばい」と言うのを、ちょっと尊敬の目で見つめたくなりませんか。

そして沖縄の「すーまんぼーすー」。 二十四節気を地元の発音でくるんで日常語にしてしまう あの感覚は、暦の中で暮らしてきた島の知恵そのもの。雨の呼び方ひとつで、ここまで地域の歴史と文化が透けて見えるとは、しみじみします。

まとめ|「梅雨」呼び名のフィールドガイド

ぎゅっと結論をもう一度。

「梅雨」の呼び方は、全国でざっくり4つに分かれます。 東日本=にゅうばい/西日本=つゆ/九州・四国=ながせ/沖縄=ながあみ・すーまんぼーすー 。共通語の「つゆ」は実は元々関西方言で、東京の伝統呼称「ニューバイ」を抜き去って主役になった「内来語」だったというのが、いちばん効くトリビアでした。

梅雨入りが近づいたら、ぜひ地元のおじいちゃんおばあちゃんに聞いてみてください。「梅雨のこと、昔はなんて言ってた?」――きっと、表には載っていないその家だけの呼び方が、ふっと出てくるかもしれません。

雨に閉じこめられる季節も、 言葉のフィールドワーク だと思えば、ちょっとだけ楽しくなる気がします。


📝 本記事の情報は2026年5月時点のものです。方言の使用実態は地域・世代によって異なります。最新の使用状況や詳細は地元の方や公的資料(NHK放送文化研究所、佐藤亮一編『都道府県別 全国方言辞典』など)もあわせてご確認ください。

主な参考ソース

-方言コラム
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