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「捨てる」の方言は?なげる・ほかす・ぶちゃる・ほるの地域差

「そのごみ、なげて」「これ、ほかしといて」と言われたら、何をすればよいのでしょうか。地域によっては、どちらも「捨てて」という意味です。

「捨てる」を表す代表的な方言には、東北地方を中心とする「なげる」、近畿地方を中心とする「ほかす」、関東・甲信越の「うっちゃる・ぶちゃる」、近畿周辺などの「ほる・ほうる」があります。

ただし、方言の境界は都道府県境と同じではありません。同じ地域でも、世代・家庭・場面によって「捨てる」と方言形を使い分ける人がいます。この記事では、国立国語研究所の全国調査を中心に、大まかな分布と誤解しやすい使い方を整理します。

「捨てる」の主な方言を地域別に比較

まず、主な言い方と分布の傾向を表で確認しましょう。ここで示す地域は、特定の県で全員が使うという意味ではなく、調査で回答がまとまって見られた範囲です。

言い方主に見られる地域標準語での意味
なげる東北地方を中心に、北海道など捨てる
ほかす近畿地方を中心に、西日本の各地など捨てる
ほる・ほうる近畿地方の周辺など捨てる、放る
うっちゃる・うちゃる関東から甲信越にかけて捨てる
ぶちゃる・びちゃる・べちゃる関東から甲信越にかけて捨てる
うだる山形県庄内地方捨てる
すつる・すつい九州地方の一部で調査回答あり捨てる

国立国語研究所の『方言の形成過程解明のための全国方言調査 方言メール調査報告書』では、2007年冬の回答を地図化し、これらの語形を紹介しています。全国では共通語形の「すてる」が広く分布し、その中に複数の方言形が地域的に現れる構図です。

方言地図からわかることと、年代の注意点

1967年刊行の『日本言語地図』にも「捨てる」がある

国立国語研究所の『日本言語地図』第62図は、「捨てる」の言い方を全国規模で記録した基礎資料です。この図は1967年に刊行されました。

元になった調査は1957年から1965年に全国約2400地点で行われ、調査時点で65歳以上かつ、その土地から移動していない人を対象としていました。つまり、地図は現在の若い世代の話し方をそのまま示すものではなく、共通語の影響が今より小さかった時代の分布を知る資料です。

2007年調査でも複数の語形が確認された

国立国語研究所は2007年冬にも、メールを用いた方言調査を行いました。その報告地図では、「すてる」のほか、「なげる」「ほかす」「ほる」「うっちゃる」「ぶちゃる」などが記録されています。

古い地図と新しい調査の双方に方言形が載っていても、使用者の割合や世代差まで同じとは限りません。調査方法と回答者が異なるため、二つの地図の記号数を直接比べて「増えた」「減った」と断定することはできません。

東北を中心とする「なげる」

東北地方では、「なげる」を「捨てる」の意味で使う地域があります。2007年の方言メール調査は東北の広い範囲に「なげる」が分布すると説明しており、国立国語研究所が紹介する津軽弁の語彙表にも「なげる=捨てる」とあります。

山形県内でも、東北文教大学短期大学部の「南山形ことば集」が「なげる」の意味を「捨てる」と記録しています。

方言を使った例標準語で言い換えると
この袋、なげておいてこの袋を捨てておいて
ごみの日だから、もうなげたよごみの日だから、もう捨てたよ

この場合の「なげる」は、物を空中へ放る動作を必ずしも表しません。「ごみをなげる」は、ごみ箱や決められた場所に処分するという意味でも使われます。北海道での用法は、星槎道都大学が北広島市の日本語教室を紹介した記事でも確認できます。似た意味の「こわい」も知りたい方は、北海道弁「投げる」「こわい」の意味を解説した記事もご覧ください。

近畿を中心とする「ほかす」と「ほる」

「ほかす」は近畿から周辺へ広がる形

2007年の調査報告は、「ほかす」を近畿地方に分布する形として説明しています。また、福岡県古賀市の「古賀の方言」には、「ほかす=捨てる(中部以西の方言)」と掲載されています。島根県浜田市の方言集にも「ほかす=捨てる」があり、近畿だけに限らない広がりが確認できます。

方言を使った例標準語で言い換えると
その紙、ほかしといてその紙を捨てておいて
まだ使うから、ほかさんといてまだ使うから、捨てないで

「ほる・ほうる」は「放る」とつながる言い方

同じ調査報告では、近畿地方の周辺に「ほる・ほうる」、富山県に「ほっかる」が分布すると説明されています。奈良県十津川村の十津川方言集でも、「ほーる=投げる」「ほかす=捨てる、投げ捨てる」と、近い意味を持つ二つの形が分けて記録されています。

「これ、ほっといて」という依頼は、話し手によって「そのままにして」とも「捨てておいて」とも受け取れる可能性があります。処分してよい物か不明なときは、文脈だけで決めず確認するのが安全です。京都周辺の「ほかす」などは、京都弁の意味・使い方をまとめた記事でも紹介しています。

関東・甲信越の「うっちゃる」「ぶちゃる」

関東地方から甲信越にかけては、「うっちゃる・うちゃる」や「ぶちゃる・びちゃる・べちゃる」といった形が記録されています。2007年の調査報告は、「うっちゃる」を「打ち遣る」に由来する形として説明し、そこから音が変化した複数の語形をまとめています。

国立国語研究所の言語地図データベースには、1963年から1970年に調べられた長野県上伊那地域の「捨てる」の方言地図があります。調査の質問文にも、「ステル、ブチャル、ブチャール、ビチャル、ビチャール」などが例示されています。

さらに、新潟県妙高市が公開する「妙高市の方言」にも、「びちゃる、ぶちゃる=捨てる、破棄する」と掲載されています。全国地図だけでなく、地域の現行資料からも同じ意味を確認できます。

方言を使った例標準語で言い換えると
古い箱はぶちゃっていいよ古い箱は捨てていいよ
それをうっちゃらないでそれを捨てないで

「ぶちゃる」は地域によって「ぶちゃーる」「びちゃる」のように音が異なります。一つの形だけを県全体の代表と決めず、近い語形が連続して分布していると捉えるほうが、方言地図の実態に合います。

庄内の「うだる」と九州の「すつる」

数は多くありませんが、全国調査にはさらに特徴的な形があります。

  • うだる:山形県庄内地方に見られ、「うっちゃる」類が変化したと考えられる形
  • すつる・すつい:九州地方の一部で回答が見られた、「捨てる」の古い二段活用形式につながる形

「うだる」は、国立国語研究所の庄内方言の解説資料で、庄内地方に特徴的な「捨てる」の言い方として紹介されています。山形県三川町が公開する「庄内の方言」にも「うだる=捨てる」と掲載されています。

一方、「すつる・すつい」は調査で回答があったことは確認できますが、現代の九州で広く日常使用されているとまでは言えません。珍しい形ほど、資料の年代と調査地点を切り離さずに見る必要があります。

方言を知らないと起きやすい三つの聞き違い

「ごみをなげて」=遠くへ投げる、ではない

東北や北海道などで「ごみをなげて」と頼まれた場合、求められているのは通常、ごみとして処分することです。投げる動作を指定しているわけではありません。

「ほっといて」=放置して、とは限らない

「ほる・ほうる」を使う地域では、前後の状況によって「捨てておいて」の意味に聞こえることがあります。書類や私物など、捨てると取り返しがつかない物は「残しておくという意味ですか」と確認すると安心です。

「ぶちゃって」=水をまく、ではない

「ぶちゃる」を知らない人には、水が跳ねるような擬音に聞こえるかもしれません。しかし、「その段ボール、ぶちゃって」という文脈なら、「捨てて」という依頼と考えられます。

なぜ「捨てる」にいくつもの方言があるのか

「なげる」「ほうる」「うっちゃる」は、いずれも物を手元から離す動作を表す言葉と意味が近く、地域によって「不要な物を処分する」意味まで担うようになっています。一方、「すつる」は「捨てる」そのものの古い活用につながる形です。

国立国語研究所の地図を見ると、一つの言葉が全国で同じように変化したのではなく、異なる系統の語形が地域ごとにまとまりを作っていることがわかります。ただし、交通・移住・メディアの影響が大きい現在は、昔の地図ほど明瞭に分かれない場合があります。

「捨てる」の方言についてよくある質問

「なげる」は北海道だけの方言ですか?

北海道だけではありません。国立国語研究所の調査では東北地方の広い範囲に分布し、青森や山形の地域資料でも「捨てる」の意味が確認できます。北海道でも使われますが、「北海道だけ」と限定するのは正確ではありません。

「ほかす」は関西弁ですか?

近畿地方を中心とする代表的な言い方ですが、島根県浜田市や福岡県古賀市の資料にも掲載されています。「関西だけ」と考えるより、中部以西の複数地域に見られる言い方と捉えるのが適切です。

今も若い世代が使っていますか?

語形や地域によって異なり、今回参照した全国地図だけでは、現在の若年層の使用率を一律には判断できません。2007年調査でも方言形は確認されていますが、個人差や場面差を含むため、「その地域の若者なら必ず使う」とは言えません。

まとめ

  • 東北地方を中心に、「なげる」を「捨てる」の意味で使う地域がある
  • 近畿地方を中心に「ほかす」、その周辺などに「ほる・ほうる」が見られる
  • 関東から甲信越には「うっちゃる・ぶちゃる」と、その変化形が分布する
  • 庄内の「うだる」、九州の一部で回答された「すつる」など、地域性の強い形もある
  • 方言地図には年代と調査対象の違いがあるため、現在の全住民の言い方とは限らない

「なげて」「ほかして」「ぶちゃって」は、どれも文脈によって「捨てて」という意味になります。処分してよいか迷う物については、方言を推測するだけでなく、話し手に一言確認すると行き違いを防げます。

参考資料

-方言コラム
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