広告 方言コラム

方言はなくなる?共通語化が進んでも地域の言葉が残る理由

テレビや旅行先で、以前より方言を耳にしなくなったと感じることがあります。若い世代が共通語に近い話し方をしていると、「方言はいつか完全になくなるのでは」と心配になるかもしれません。

結論から言うと、伝統的な方言には衰退や消滅の危機がある一方、日本中が共通語だけになると決まったわけではありません。 人は相手や場面に応じて共通語と方言を使い分けます。地域の言葉が別の地域へ広がったり、新しい使われ方を生んだりすることもあります。

国立国語研究所と文化庁の資料をもとに、「共通語化」と「方言の消滅」は何が違うのか、方言を未来へ残すには何が必要なのかを見ていきましょう。

「方言がなくなる」を三つに分けて考える

「方言がなくなる」という言い方には、異なる現象が混ざっています。まずは次の三つを分けると、状況を理解しやすくなります。

現象内容
共通語化発音や語彙などが共通語に近づく
使用場面の縮小家庭や親しい人との会話など、使う場面が限られる
世代継承の中断子どもが地域の言葉を日常的なことばとして身につけなくなる

共通語を話せる人が増えても、家庭や仲間内では方言を使うことがあります。反対に、方言を知っている人がいても、若い世代へ日常のことばとして受け継がれなければ、長期的には危機が深まります。話者が「いるか」だけでなく、誰が、誰に、どの場面で使っているかが重要です。

長期調査では音声の共通語化が確認されている

国立国語研究所は、山形県鶴岡市で1950年、1971年、1991年、2011年に言語調査を行っています。約20年おきに同じ地域を調べた「鶴岡調査」です。

この調査では、絵を見て31の単語を発音してもらうなどして、共通語の発音か、方言特有の発音かを観察しました。国立国語研究所の解説によると、1991年には若い世代で多くの調査語が共通語の発音になり、2011年の結果を加えると全年齢層で共通語発音の割合がほぼ100%になっています。

ただし、この「ほぼ100%」は鶴岡市で調べた特定の単語の発音についての結果です。語彙、語尾、会話全体や、日本全国の方言が消えたという意味ではありません。調査で何を測った数字なのかを切り分ける必要があります。

方言が残る鍵は「誰と、どこで話すか」

方言は、いつでも同じ割合で使われるわけではありません。国立国語研究所が紹介する1998年の全国調査では、15歳から69歳の男女4,500人を対象とし、2,950人から回答を得ています。

首都圏以外の回答を見ると、家族同士で「方言を話す」と答えた人は41.2%、「標準語と方言が混ざる」は41.9%でした。近所のあまり親しくない人と話す場面では、「方言を話す」が19.4%へ下がり、「標準語を話す」は家族相手の16.9%から38.9%へ上がっています。

首都圏以外家族同士親しくない近所の人
標準語16.9%38.9%
標準語と方言が混ざる41.9%41.6%
方言41.2%19.4%

これは1998年に行われた意識調査であり、現在の使用率を示す数字ではありません。それでも、相手との関係によって話し方を変える傾向を考える材料になります。旅行者が現地で方言を聞かなかったとしても、地域の人が外から来た相手に共通語で話していただけかもしれません。

消滅の危機は話者数だけでは判断できない

文化庁は、ユネスコが2009年に発表した資料に掲載された、日本国内の8つの言語・方言について調査研究を行っています。対象は、アイヌ語、八丈語、奄美語、国頭語、沖縄語、宮古語、八重山語、与那国語です。

国立国語研究所の解説では、ことばの危機度を考える手がかりとして、次のような点が挙げられています。

  • 若い世代がそのことばを話しているか
  • 家庭だけでなく複数の場面で使われているか
  • そのことばを使った教育や学習機会があるか
  • 新聞、テレビ、ラジオなどで使われているか
  • 地域人口に対して話者がどの程度いるか
  • 話者が自分のことばを恥ずかしいと感じていないか

つまり、単に辞書へ載っている、年配の話者が知っているというだけでは、日常のことばとして継承されているとは限りません。特定の方言語が一つ使われなくなることと、地域の言語体系全体が消滅危機にあることも区別して考える必要があります。

とくに琉球列島では島や地域ごとの違いが大きいため、ひとまとめにしない視点が欠かせません。地域差の具体例は、沖縄本島と宮古・八重山のことばの違いでも紹介しています。

方言は消えるだけでなく、形や範囲を変える

伝統的な言い方が衰える一方で、地域のことばが別の地域へ広がることもあります。国立国語研究所は、関西の「めっちゃ」が若い世代を中心に全国へ広がり、地域によっては関西弁だと意識されにくくなった例を紹介しています。「おかん」「おとん」「なんでやねん」についても、世代や地域ごとの広がりが調査されています。

これは、すべての地域差がそのまま保存されるという意味ではありません。古い語形が使われなくなる一方、新しい地域表現や、方言を意識的に楽しむ使い方が生まれることがあります。方言の未来は「残るか消えるか」の二択ではなく、形と使われる範囲が変化する過程として見る方が実態に近いでしょう。

地域の言葉が文化活動の中で新しい役割を得る例として、名古屋の「やっとかめ」が文化の名前として使われる例があります。デジタル表現との結びつきについては、LINEスタンプなどで楽しまれる岩手の地域語も関連記事です。

方言を未来へ残すために個人でもできること

国立国語研究所は、語彙集、文法書、会話資料を作り、録音・録画へ文字化したテキストや解説を付ける「記録保存」を進めています。同時に、親から子や孫へ実際のことばが受け継がれる「継承保存」も欠かせないと説明しています。

専門的な調査でなくても、地域のことばに関心を持つ入口は作れます。

  1. 家族や地域の人へ、意味と使う場面を尋ねる
  2. 語だけでなく、短い会話や発音も本人の同意を得て記録する
  3. 話者の年代、地域、聞いた時期を一緒に残す
  4. 同じ県内にも別の言い方がある可能性を記録する
  5. 方言を笑いや矯正の対象にせず、使いたい人の選択を尊重する

録音や映像には個人情報が含まれます。公開を前提にせず、誰が見聞きできるのかを話者と確認することが大切です。また、若い人へ方言の使用を強制することも継承とは異なります。意味や背景を知り、使える場面を増やすことが、無理のない一歩になります。

よくある疑問

共通語を話すと方言を失ったことになりますか?

必ずしもそうではありません。仕事や学校では共通語、家庭や友人同士では方言というように、相手と場面によって使い分ける人がいます。両方を使えることと、方言をまったく知らないことは別です。

SNSで方言を使えば保存になりますか?

方言を知る入口や、文字表現を共有する機会にはなります。ただし、発音や会話の間合い、使う相手と場面まで文字だけで残すのは難しいため、録音・録画や詳しい解説も組み合わせると記録として役立ちます。

方言を話せないのは悪いことですか?

悪いことではありません。どのことばを使うかは、育った環境や生活の場面によって異なります。保存や継承では、話者へ使用を強制するのではなく、学びたい人が接する機会と記録を残すことが大切です。

まとめ

  • 音声を中心とした共通語化は長期調査でも確認されている
  • 共通語化が進んでも、家庭や親しい相手との間で方言が使われる場合がある
  • 消滅危機では、若い世代への継承や使用場面の広さが重要になる
  • 伝統的な方言が衰える一方、地域の言葉が広がったり新しい役割を持ったりすることもある
  • 記録保存と、実際に世代を超えて使う継承保存の両方が必要

方言の未来を一つの予測で決めることはできません。変化している部分と、今も場面に応じて使われている部分を分けて見ながら、その地域でしか聞けないことばへ関心を向けることが、記録と継承の出発点になります。

参考資料

-方言コラム