机の角にすねをぶつけて、青紫色の跡ができたとき、その跡を何と呼びますか。「青あざ」のほかに、「あおたん」や「あおなじみ」と言う人もいるでしょう。
先に結論を言うと、「あおたん」と「あおなじみ」は、どちらも打撲などでできる青あざを表す言葉です。 ただし、現在の広がり方は同じではありません。国立国語研究所の大学生調査では「あおたん」は全国で広く知られていた一方、「あおなじみ」は茨城県北部や千葉県北東部に回答が集中していました。
この記事では、二つの呼び方の意味と地域差を、調査人数や年代にも注意しながら読み解きます。なお、ここで扱う「青あざ」は、ぶつけたあとにできる一時的な皮下出血の呼び名です。生まれつきの母斑などは対象にしていません。
「青あざ」「あおたん」「あおなじみ」の違い
| 呼び方 | この記事での意味 | 資料から分かる特徴 |
|---|---|---|
| 青あざ | 打撲などによる皮下出血の跡 | 説明するときに最も通じやすい呼び方 |
| あおたん/青たん | 青あざ | 大学生調査で全国的に高い認知が確認された |
| あおなじみ/青なじみ | 青あざ | 茨城・千葉の一部で現在も使用例が確認できる |
日本医師会は、ぶつかったあとに皮膚の奥で出血した状態を皮下出血と説明し、初めは青く見えるため「青あざ」とも呼ばれるとしています。「あおたん」「あおなじみ」は、この日常的な青あざを指す地域的な呼び方です。
ただし、三つを全国どこでも同じ頻度で使うわけではありません。話者の出身地や家族の言葉、世代によって、自然に選ぶ呼び方が異なります。
「あおたん」は方言?全国へ広がった呼び方
「あおたん」には地域語としての背景がありますが、現在は特定の一地域だけで使われる言葉とは言いにくくなっています。国立国語研究所は「あおたん」を、首都圏で広がりを調べてきた「新方言」の一項目として扱っています。
同研究所の2018年度版調査では、「あおたん」について回答した2,255人のうち、37.9%が「言う」、51.0%が「聞いたことがある」と答えました。「聞かない」は11.0%です。つまり、回答者全体の約9割が、自分で使うか、少なくとも聞いた経験を持っていました。
関東内でも使用率は一様ではありません。たとえば「言う」の割合は、東京都23区北東部で60.0%、同南西部で50.0%、埼玉県南部で29.9%でした。地域差を残しつつ、広い範囲で知られている様子が見えます。
この数値は日本人全体の使用率ではありません。 調査は2011年6月から2018年1月にかけて、東京都・埼玉県・神奈川県にある18の大学・高専の学生を対象に行われました。出身地域別の結果を読める貴重な資料ですが、全世代・全住民へそのまま当てはめないことが大切です。
「あおなじみ」は茨城・千葉の一部で根強い
「あおなじみ」も意味は青あざです。ただし、国立国語研究所の同じ調査では、「あおたん」より分布がはっきり局地的でした。
「あおなじみ」に回答した766人のうち、「言う」は5.9%、「聞いたことがある」は10.1%、「聞かない」は84.1%でした。一方、地域別の「言う」は茨城県北部で90.0%、千葉県北東部で81.8%と高くなっています。
ここで注意したいのは人数です。茨城県北部は10人、千葉県北東部は11人の回答なので、この比率だけで両地域の住民全体を断定することはできません。それでも、ほかの地域では「聞かない」が8~9割を占める例が多いことから、分布の中心を考える手がかりになります。
千葉県銚子市も、市の企画「使ってみよう銚子弁」で「あおなじみ」を取り上げています。大学生調査の千葉県北東部という傾向と、自治体が地域語として紹介する実例が重なります。
神栖市では小学生にも「あおなじみ」が受け継がれている
「あおなじみ」は昔の言葉なのでしょうか。茨城県神栖市で2022年度に行われた調査を見ると、少なくとも同市の調査校では、小学生世代にも使われていました。
科研費の研究成果報告書によると、神栖市の3小学校の5・6年生306人(一部項目は278人)と、その家族213人から有効回答を得ています。「あおなじみ」を「使う」と答えた小学生は、旧神栖地区の2校で約65%、旧波崎地区の1校では約8割でした。
同じ調査では、小学生の使用が少ない地域語も多くありました。その中で「あおなじみ」は使用回答が目立った語です。方言はすべてが同じ速度で消えるのではなく、身近な物や体の状態を表す言葉が、家庭や地域で強く残る場合があると分かります。
使い方は「青あざ」と置き換えると分かりやすい
二つの言葉は、日常会話で「青あざ」と置き換えると意味をつかみやすくなります。
| 言い方の例 | 標準語で言い換えると |
|---|---|
| すねをぶつけて、あおたんができた | すねをぶつけて、青あざができた |
| 転んだところが、あおなじみになった | 転んだところが、青あざになった |
| そのあおたん、痛くない? | その青あざ、痛くない? |
例文は用法を分かりやすく示すために作ったものです。語のアクセントや言い回しは地域や話者によって異なるため、地域の自然な発音まで一つに決めることはできません。
自分では全国共通語だと思っていた言葉が、出身地を離れて初めて通じないこともあります。似た例は、標準語だと思われがちな方言のまとめでも紹介しています。
呼び名の違いから見える方言の広がり方
「あおたん」と「あおなじみ」を比べると、方言の広がり方がよく分かります。「あおたん」は地域差を残しながら広い範囲で認知され、「あおなじみ」は茨城県・千葉県の一部で濃く使われています。
- 地域を越えて広まり、方言だと意識されにくくなる言葉がある
- 狭い地域でも、子どもへ受け継がれている言葉がある
- 同じ県内でも、地域や家庭によって使う言葉が異なる
こうした地域差は、病名や身近な物の呼び方にも現れます。たとえば、目の「ものもらい」は「めばちこ」「めいぼ」「めっぱ」など多くの呼び名があります。詳しくは、「ものもらい」の方言と地域差をご覧ください。
また、単語の違いだけでなく発音やアクセントも含めて整理したい方は、方言となまりの違いも参考になります。
よくある疑問
「あおたん」は北海道だけの方言ですか?
現在は北海道だけに限られる言葉ではありません。国立国語研究所の大学生調査では、関東を含む広い地域の出身者に使用・認知が確認されています。地域語としての背景を持ちながら、広域に通じる言葉になったと考えるのが適切です。
「あおなじみ」は茨城弁ですか、千葉弁ですか?
どちらか一県だけの言葉とは言い切れません。調査では茨城県北部と千葉県北東部に使用回答が集まり、神栖市の調査と銚子市の方言資料でも確認できます。県境をまたぐ地域語として捉えると分かりやすいでしょう。
「あおたん」と「あおなじみ」に意味の違いはありますか?
今回確認した資料では、どちらも打撲などによる青あざを指しています。意味の中心は同じで、主な違いは呼び方を使う地域と広がり方です。
生まれつきの青いあざも「あおたん」と呼びますか?
この記事で扱う「あおたん」「あおなじみ」は、ぶつけたあとにできる一時的な皮下出血の呼び名です。生まれつきの母斑などとは原因が異なるため、医療上の説明では区別が必要です。
まとめ
- 「あおたん」と「あおなじみ」は、どちらも打撲などでできる青あざを表す
- 大学生調査では「あおたん」は約9割が使用または認知していた
- 「あおなじみ」は茨城県北部・千葉県北東部に使用回答が集中していた
- 神栖市の調査では、小学生にも「あおなじみ」の使用が確認された
- 調査対象と人数に注意し、県民全体の呼び方として一般化しないことが大切
身近な「青あざ」一つにも、広く伝わった言葉と、特定地域で濃く受け継がれる言葉があります。誰かが「あおたん」「あおなじみ」と言ったら、その人の言葉の背景に目を向けてみてください。