「出かける前に、玄関の鍵かっといて」。こう言われたら、鍵を買いに行くのか、それとも戸締まりをするのか、地域によって受け取り方が分かれます。
先に結論を言うと、「鍵をかう」は「鍵をかける」という意味の地域語です。名古屋市と岐阜市の資料では方言として掲載され、群馬県富岡市の妙義地域を紹介する資料にも同じ言い方が見られます。
この記事では、公的資料で確認できる範囲に限って、「鍵をかう」の意味、地域例、使い方、語源を整理します。
「鍵をかう」の意味は「鍵をかける」
「鍵をかう」は、玄関や車などの鍵をかけることです。名古屋市の『「やさしい日本語」の手引き』は、「鍵をかう」を方言の例として挙げ、「鍵をかける」と言い換えています。
「かう」は共通語の「買う」と同じ音ですが、意味は文脈で区別できます。
| 言い方 | 意味 |
|---|---|
| 玄関の鍵をかう | 玄関の鍵をかける |
| 新しい鍵を買う | 新しい鍵を購入する |
会話では「鍵かっといて」のように、目的語と場面が手がかりになります。ただし、地域外の人には「鍵を買っておいて」と聞こえる可能性があります。
どこの方言?資料で確認できる地域例
今回確認した公的資料では、次の地域に用例があります。
| 資料の地域 | 掲載されている意味・例 |
|---|---|
| 愛知県名古屋市 | 「鍵をかう」=「鍵をかける」 |
| 岐阜県岐阜市 | 「玄関の鍵かっといてくれる?」 |
| 群馬県富岡市妙義地域 | 「鍵をかう」=「鍵をかける」 |
名古屋市と岐阜市で確認できるため、東海地方の言い方として紹介されることがあります。一方、妙義地域の資料にも載っているので、「東海地方だけの方言」とは言い切れません。
資料に掲載されていることと、その市や県の全員が日常的に使うことは別です。家庭、年代、場面によって使わない人もいるため、「資料で確認できる地域例」として捉えるのが適切です。
話者自身が方言だと気づきにくい生活語は、標準語だと思われがちな方言のまとめでも紹介しています。
「かう」の使い方と活用
「かう」は会話の中で形を変えて使われます。以下は、意味を理解するための短い例です。
| 方言の例 | 共通語での意味 |
|---|---|
| 出かけるで、鍵かっといて | 出かけるから、鍵をかけておいて |
| 玄関の鍵かった? | 玄関の鍵をかけた? |
| 忘れんように鍵かわなあかん | 忘れないように鍵をかけなければならない |
岐阜市の資料には、「鍵をかう」だけでなく「ボタンをかう」も掲載されています。この場合は、ワイシャツのボタンを「とめる」「かける」という意味です。
つまり、「かう」は鍵という物を購入する動作に限らず、鍵やボタンをかけて固定する動作に使われることがあります。
語源は「支う(かう)」の「支える」
岐阜県図書館のレファレンス回答は、『岐阜県方言辞典』をもとに、「かう」を「支う」と結び付けています。もともとは、心張り棒で引き戸を支えたり、閂で開き戸が開かないようにしたりする際に使う言葉だったという説明です。
戸を開かないように支える動作が、後に南京錠や車の鍵をかける場合にも使われるようになったとされています。
この説明を踏まえると、「鍵をかう」は単に「鍵を買う」がなまった表現ではありません。「戸を支えて閉じる」という古い動作のイメージにつながる言葉です。
県外の人には「鍵をかける」と言い換える
地域内では自然に通じても、県外の人や日本語を学んでいる人には「買う」と誤解されることがあります。確実に伝えたいときは、次のように言い換えると分かりやすくなります。
- 鍵をかっておいて → 鍵をかけておいて
- 玄関かった? → 玄関の鍵をかけた?
- ボタンかって → ボタンをとめて
聞き手側は、「鍵をかけるという意味ですか」と確認すれば十分です。地域の言い方を間違いとして直すのではなく、意味を確かめると会話が続きやすくなります。
標準語と同じ音から誤解が生まれる生活語には、「捨てる」を「なげる」「ほかす」と言う例もあります。詳しくは、「捨てる」の方言と地域差をご覧ください。
よくある疑問
「鍵をかう」は名古屋だけの方言ですか?
名古屋だけとは言えません。今回確認した資料では、名古屋市のほか、岐阜市と群馬県富岡市の妙義地域にも掲載されています。ただし、全国の詳しい使用率や世代別の分布までは、これらの資料から判断できません。
漢字は「買う」と書きますか?
語源の説明では、「支える」を意味する「支う」と結び付けられています。共通語の「買う」と同じ意味ではありません。日常ではひらがなで「かう」と書けば、方言の語形を示しやすくなります。
鍵以外にも「かう」を使いますか?
岐阜市の資料には、「ボタンをかう」を「ボタンをとめる、かける」という意味で使う例があります。ただし、どの物に使うかや使用頻度には地域差・個人差があるため、すべての地域で自由に置き換えられるとは限りません。
まとめ
- 「鍵をかう」は「鍵をかける」という意味の地域語
- 名古屋市、岐阜市、群馬県富岡市妙義地域の公的資料で確認できる
- 岐阜市の資料には「ボタンをかう=ボタンをとめる」という例もある
- 語源は「支う」の「支える」と結び付けられ、心張り棒や閂で戸を開かないようにする動作に由来すると説明される
- 地域外の人へは「鍵をかける」と言い換えると伝わりやすい
「鍵かっといて」と聞いたら、まずは買い物ではなく戸締まりの話かもしれないと考えてみてください。